倒産寸前の「はとバス」(東京)を立て直した元社長の宮端清次氏には、心に刻むリーダーシップ論があったという。ソニー創業者井深大氏の講演で学んだそうだ。こんな話である
▼井深氏が社長のとき、工場トイレの落書きに悩まされていた。見学者も大勢来るのに指導してもなくならない。ところがある日、急になくなった。訳を聞くと、掃除のおばさんが「ここは私の神聖な職場です」と張り紙をしていたのだ。井深氏はこう反省したらしい。自分にはリーダーシップがなかった。上から下への指導力や統率力がそれだと考えていたが違う。人の行動を変容させる「影響力」こそがリーダーシップなのだ。『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社)で目にしたエピソードである
▼あえてひと言で表現すると、物事に取り組む真摯(しんし)な姿勢でないか。どんな時代にも通用しよう。明治安田生命保険が6日発表した「理想の上司」ランキングを見て思い出した逸話である。ことしの1位は男性がお笑いタレントの内村光良さん、女性がアナウンサーの水卜麻美さん。共に7年連続でトップを維持している。どちらにも指導力や統率力を発揮するイメージはない。上の者にも下の者に穏やかに接しながら、仕事には妥協なく向き合うタイプだろう。そこに影響力が生まれる
▼今春就職する学生の目には、それが理想の上司と映っているのである。新人を迎える時期が近付いてきた。上から目線で指導してやろうと待ち構えている人は、今のうちに軌道修正をした方がいい。