多くの死者を出した歌舞伎町ビル火災を記憶にとどめている人は少なくあるまい。2001年9月に新宿区歌舞伎町の雑居ビルで発生した事件である。急性一酸化炭素中毒で44人もの利用客らが亡くなった。原因は放火とみられているが、真相は今も分かっていない
▼なぜこんなに多くの死者が出たのか。理由は避難通路にあった。各フロアをつなぐ階段が荷物やごみで埋め尽くされ、逃げ道をふさいでいたのである。しかもそれら雑多な物は火を全館に広げる役割も果たした。いくら消防法に避難通路の確保が明記されていても、建物のオーナーや管理者に理解がないのでは守れるはずの命も守れない。法は単なるお題目ではないのである
▼トルコ南部で6日発生した地震による被害も事態が明らかになるにつれ、人災の側面が大きかったことが分かってきた。トルコは建築物に日本と同程度の高い耐震基準を定めていたが、違法建築や手抜き工事がはびこり、基準を満たさない危険な建物も数多くあったという。死者は既に4万人を超え、安否不明の人も今なお大勢いる。報道によると高層マンションの1階を店舗にするため勝手に柱を撤去したり、建築費を安く上げるため鉄筋量を減らしたりといった行為が横行していたらしい
▼ひどい話ではある。ただ、歌舞伎町火災も現実に事が起こるまでは人ごとだったのである。人は誰でも、自分だけは大丈夫と根拠もなく信じているものだ。そんな当てにならない人間心理を補完するために法がある。今回の災害をトルコ特有の問題として終わらせてはいけない。