愛する人を救う方法は知っているのに、目の前に立ちはだかる高い壁のせいで手が届かない。日本の臓器移植とはそういうものらしい。法整備はされているものの国内にドナー(臓器提供者)は少なく、海外で移植するとなると莫大(ばくだい)なお金がかかる
▼東野圭吾さんの小説『人魚の眠る家』(幻冬舎)にも重い心臓病を抱える子どもを米国で治療するため、募金で費用2億6000万円を集める話があった。子の父親が友人に話す。「海外で臓器移植を受けるための手順は確立されている。その費用の捻出方法についてもな。世間に頭を下げて、助けてもらうしかない」。娘の命をつなぎ留めるため、意地もプライドも捨てたというのである
▼患者本人や親族らのそんな必死の思いを逆手にとって、私腹を肥やしていたのだとしたら、人でなしというほかない。NPO法人「難病患者支援の会」の菊池仁達理事が先日、海外での臓器移植を無許可あっせんした疑いで警視庁に逮捕された事件のことである。臓器移植法違反容疑での摘発は全国初だという。報道によると菊池容疑者はベラルーシでの移植費用として患者に約3000万円を請求、1000万円を懐に入れていた。本件以外にも100件以上、無許可あっせんをしていたとみられる
▼海外移植には危険が伴う場合も多い。菊池容疑者が仲介した中にも患者が死亡した例があったと聞く。無許可が横行するのは国内事情ゆえだが、臓器移植には死生観が絡むため急な改善は望めないのが実態だ。ブローカーを取り締まるしかない現実が悲しい。