世の中には規範や道徳に反する行為をしてとがめられても、自分には独自の考えがあるからと素直に謝れない人物がいる。そうそうあの上司がまさに、などと思った人もいるのでないか。世間知らずの子どもにありがちだが、大人にも少なからずいる
▼夏目漱石の『坊っちゃん』にこんな一節があった。祝勝会に向かう生徒たちが大騒ぎし、教師が何度注意してもやめない。校長が雷を落としてやっと収まるのだが―。教師として引率に加わっていた坊っちゃんにはよく分かっていた。「生徒があやまったのは心から後悔してあやまったのではない。ただ校長から、命令されて、形式的に頭を下げたのである」。生徒たちは心の中でべろりと舌を出し、笑っていたに違いない
▼ここまでの行状を見る限りそれと似たりよったりだろう。海外に滞在し、国会へは一度も出席しないままユーチューブでゴシップの発信を続けるNHK党のガーシー(本名・東谷義和)参院議員が参院本会議で陳謝することになったそうだ。参院が先の本会議で「議場における陳謝」の懲罰を決めたため、応じる意志を固めたという。形だけの感が否めない。ガーシー氏の行為は新入社員が職場を欠席したまま仕事もせず、趣味だけを楽しんでいたようなもの
▼坊っちゃんの話には続きがあった。「商人が頭ばかり下げて、狡い事をやめないのと一般で生徒も謝罪だけはするが、いたずらは決してやめるものでない」。今後を暗示しているようにも聞こえる。議会を軽視するのは、国民をばかにするのと同じ。そろそろ気づいた方がいい。