会社の経営者を題材にした、こんなジョークを聞いたことはないだろうか。部下が社長に尋ねるところから話は始まる
▼「社長、イエスマンについてはどうお考えですか」。社長が答える。「私の言うことにただ従うだけの社員など必要ない。私がおかしなことを言っていると思ったら反対の意見を堂々と突きつけるべきだ」。「社長、お言葉ですが…」。部下が口を挟もうとすると社長が怒鳴る。「私に逆らうな」。社長はこれで大真面目なのだから始末が悪い。世の中には矛盾した出来事が案外あるものである。とはいえ国の事業に絡むこれほどの矛盾も珍しい。長崎県の諫早湾干拓を巡る複数の裁判で、締め切り水門を「開けよ」の判決と、「閉めよ」の判決が長らく並立していたのだ
▼干拓と防災が目的のため事業は閉門を前提としていた。漁業者は水質の悪化を理由に開門するよう提訴。これが通った。ところが今度は農業者らが営農被害と災害防除を理由に開門しないよう提訴。これも通ったのだった。開けたい方も閉めたい方も正当な根拠を持つ、奇妙な事態が生まれたのである。開門判決は2010年。当時の首相菅直人氏が自民党の進めた事業に反対だったため国として上告をせず、開門が決まった。一方、自民党への政権交代後に起こされた裁判では事業効果が再評価され、開門差し止めの判決が出た
▼この不毛な状況にやっと終止符が打たれた。最高裁が2日、開門を認めないとの判断を下したのだ。「私に逆らうな」と幅を利かす政治家に現地の方々がいいように踊らされた年月だった。