本道ともゆかりの深い思想家新渡戸稲造は主著『武士道』で、その基本原理の一つに「礼」を取り上げていた。数ある徳行のうちでも高く評価すべきものだというのである
▼ただ、形式に堕しているのは貧弱な偽物。本質は「思いやり」にこそあると説いていた。「礼の必要条件とは、泣いている人とともに泣き、喜びにある人とともに喜ぶことである」。稲造は礼が慈愛と謙遜から生じるとして、そう指摘していた。見ていてうれしくなるのは、選手たちがそんな古き良き日本の文化を体現してくれているからでもあるのだろう。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で快進撃を続ける日本代表チーム「侍ジャパン」の話である。1次ラウンドを全勝で駆け抜け1位通過を決めた
▼12日のオーストラリア戦は初回から圧巻のひと言。1番ヌートバーが四球で出塁し、2番近藤健介がライト前ヒットでチャンスを広げると、3番大谷翔平が外野看板直撃の特大ホームランを放ち3点をもぎとったのである。仲間への思いやりや相手への敬意など礼の精神は試合中随所に見られるが、球場の外でもそれは発揮されていたようだ。チェコ戦で死球を出した佐々木朗希が13日、チェコの宿舎までおわびに出向いたというのである。お菓子を両手いっぱいに携えていったそうだ
▼死球はままあることで本来そこまでする必要はない。侍ジャパンの一人としての心意気に違いない。さあ、あすは準々決勝のイタリア戦だ。いずれ劣らぬ剣豪たちが力を合わせてどんな戦いを見せてくれるのか。今から楽しみである。