四方を壁で囲まれた小さな空間にこもると、不思議な安心感に包まれる。トイレのことだが、そんな感覚を持つ人は多いのでないか。誰にも邪魔されず自分の時間を過ごせる究極のパーソナルスペースだからだろう
▼タレントのタモリさんもそんな一人らしい。「何を考えるでもなく、リラックスしてじーっとしているっていうのがいいんじゃないですかね」。家を建てるときに台所とトイレだけはこだわったそうだ。妹尾河童さんの『河童が覗いたトイレまんだら』(文春文庫)で仕入れた話である。家ばかりではない。学校や商業施設、公衆のトイレでもほっとする感じは似たようなもの。とはいえ最近は社会状況の変化で、トイレを巡る落ち着かない話題も増えてきた
▼例えば東京の渋谷区がことし2月に設置した公衆トイレ。女性専用をなくして、共用の個室2室と男性用の小便器2基だけにしたのだという。女性専用をなくすのは性犯罪を助長するようなものと、SNSなどで批判の意見が相次いでいる。バリアフリーを突き詰めるとこうなったとのこと。理想は分かる。ただ結果として性犯罪者とのバリアまで低くなるのでは、女性は怖くて使いづらかろう
▼他には女性として暮らす性同一性障害の経産省職員が女性トイレを自由に使わせないのは不当と国を訴えた例もあった。地裁と高裁で判決は真逆に分かれ、近く最高裁に持ち込まれる。こちらも女装した不審者と見分けがつかないだけに難しい問題だ。福祉もLGBTも結構だが、行き過ぎは良くない。個室でくらい気を抜きたいではないか。