移民を多く受け入れてきたフランスの人だけに、歴史家で人類学者のエマニュエル・トッド氏は各国の移民事情にも造詣が深い。日本人が移民を拒みがちなのは特殊な問題のせいだと考えているそうだ
▼「それは日本人が人種差別主義者だというのではなくて、日本人なりの暮らし方があるせいだと思います。ただ、それはそれでもっと深刻な問題でもあります」(『パンデミック以後』朝日新書)。具体的には何か。「極端な礼節」「他人に迷惑をかけない」といった暮らしの「技術」が暗黙の了解とされていることだとトッド氏は指摘する。フランス人はそれほど礼儀正しくないため、無礼な移民が来ても失うものはない。一方日本は基底の文化が危機にさらされるのだから、拒否感が出るのも当たり前というのである
▼厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が先頃公表した2070年までの日本の将来人口推計に、外国人人口が総人口の1割を超えるとの試算があったのを見て、氏の懸念を思い出した。総人口が20年の1億2615万人から3割減って8700万人になるのも穏やかでないが、その1割が外国人と聞くと少々胸がざわつく。地域差があるため2割、場合によっては3割が外国人の所も出てこよう。街の風景も今とはだいぶ違うものになるはずである
▼社会が変化を受け入れるのに、50年はいかにも短い。総人口の2%程度しかいない現在でも数多くの混乱やあつれきが生じているのだ。経済力を維持するのに移民を奨励するのか、文化的統合を重く見て抑制するのか、実に悩ましい。