太平洋戦争時、国民の戦意高揚のため盛んに使われた標語に「欲しがりません勝つまでは」があった。説明するまでもあるまい。この戦争に勝つまでは嗜好(しこう)品やぜいたく品は欲しがらないという意味である
▼必要最低限の物資で我慢して暮らし、国民一丸となって目的を達成しようとの雰囲気を醸成した。国民学校の女子児童が、大政翼賛会と新聞社の募集する国民の決意を表す標語に応募したものという。リズムの良さに加え、国民性にぴたりとはまったところが流行語となった理由だろう。その精神は連綿と続いているようだ。日本社会にはいまだに、目的に達するまで自罰的に我慢を強いる傾向がある。昨今の電気を巡る情勢にもそんな構図が見えはしないか
▼政府はおととい開いた物価問題に関する閣僚会議で、国に申請が出されていた北海道電力など電力大手7社の電気料金値上げを了承した。各社平均で15―39%余りの大幅な値上げとなる。値上げの実施予定日は6月1日。もうすぐである。一方で電力需給を安定させ、料金も下げられる原子力発電所の多くは止められたままだ。中でも東日本では一つも再稼働していない。原子力規制委員会の審査が終わらないためだが、東日本大震災から12年もたつのにこのありさま
▼全てが整わなければ動かさない。高い電気料金で我慢しよう。「欲しがりません勝つまでは」というわけだ。その間にお金はもとより、技術も人材も失われつつある。どこかで目的を取り違えたのでないか。敗戦に向けて突き進んだかつての日本の暗い雰囲気を思う。