俳人の長谷川櫂さんによると、異質のものを受け入れ、選び、変容させる「和」の力が日本に大きなエネルギーをもたらす根源になっているそうだ。『和の思想 日本人の創造力』(岩波現代文庫)で学んだ知見である
▼はるか昔、この国の人々は自分たちのことを「わ」と呼んでいた。それにいつしか「倭」の漢字が当てられ、「和」に改められたところで、調和が日本人の理想像になったと長谷川さんは推測する。「対立するもの、相容れないものを和解させ、調和させる」「殺し合ったりせず安らかに生きたい」。日本人はその思想で全てを発展させてきたというのである。納得できる話でないか。岸田首相も今、そんな心境でいるに違いない
▼首相が議長を務める先進7カ国首脳会議(G7サミット)がきょうから21日まで、広島市で開かれる。最大のテーマはロシアのウクライナ侵略や中国の一方的な現状変更の試みに対抗すべく、民主主義国の指導者の集まりとして一枚岩の結束をアピールすることだ。G7を構成する日本や米国、欧州各国は価値観を全て共有しているわけではない。それぞれ事情があり、経済的な利害関係もあれば、ロシアや中国との立ち位置もばらばら。各国首脳は皆、腹に一物ある手強い人物ばかりである
▼岸田首相はそんな立場も意見も違う猛者たちを「和」の思想でどうまとめるのか。最終日の共同宣言は慣例で開催国首脳の意向が尊重される。きれい事だけでは存在感も国際社会への影響力も持ちえまい。対立するものを調和させ事態を動かす。首相の真価が試される。