茶道を完成させた千利休は茶会を常に一生に一度の機会と捉え、真剣に向き合っていたという。この心構えを「一期一会」と名付け、世に広めたのが幕末期の大老井伊直弼だった
▼宗観の茶名も持つ井伊が茶道における主客の心得を詳述した『茶湯一会集』にこう記している。「茶湯の交会は、一期一会といひて、たとえば幾度おなじ交会するとも今日の会にふたたびかへらざる事を思えば、実に我一世一度の会也」。そこで何より大事なのは主催者たる亭主が心を配り、自らの趣向通りに万事遺漏なく準備を整えること。良い場があれば客もおのずから実意を示し、茶会は会心の出来になるそうだ。先進7カ国首脳会議(G7サミット)で亭主役を務めた岸田首相も今頃、まさに会心の笑みを浮かべているのでないか
▼少なからぬ成果を上げ、近年、存在感の低下が叫ばれていたG7サミットの価値を再確認できる集まりとなった。急きょ決まったウクライナのゼレンスキー大統領訪日に驚いた人も多かったろう。ゼ氏の出席で、平和な世界を目指す民主主義国の結束がより強固なものとなった。中でもかつて原爆を投下した米国のバイデン大統領を含むG7と欧州連合の首脳がそろって原爆資料館を訪問し、原爆死没者慰霊碑に献花する場面は核廃絶の強いメッセージを発信した
▼広島開催もそうだが、今回は岸田首相の趣向がことごとくきれいにはまったようだ。グローバルサウスと呼ばれる国々を招待し、新たな国際秩序に向けた布石を打ったのもその一つ。日本で一期一会の機会を持てた意義は大きい。