子どものころの話である。三度の食事の合間に腹がへったとき、軽くご飯を食べるのに重宝したおかずが「さんま蒲焼」缶詰だった。よく分かる、という人も少なくないのでないか
▼ご飯にサンマの身を乗せ、少しとろみのついた甘じょっぱいタレをその上からたっぷり回しかける。骨まで柔らかいサンマと、タレの染みたご飯のうまいことといったら。記憶に強く残っているのは、食べる機会が多かったからだろう。家には常に買い置きがあった。それだけ安かったわけだ。当時の値段は分からない。ただ、10年ほど前までは3缶パックが300円以下で売られていた。最近見ると定番の商品に800円近い値がついている。思わず小さく叫んでしまった
▼サンマの漁獲量が激減したためだが、どうやら危ないのはこれだけではない。農林水産省が先週発表した2022年の「漁業・養殖業生産統計」によると漁獲量は前年比7.5%減の385万8600㌧で、比較可能な1956年以降最少を記録したそうだ。魚種別に見るとサバ類とカツオの不漁が目立つ。サバ類が28.5%減の316万㌧、カツオが28.6%減の175万㌧とどちらも3割近く減少している。温暖化による海水温や海流の変化といった漁場環境悪化をはじめ、各国の排他的経済水域の見直し、乱獲などが複雑に影響しているらしい
▼おかずに困ったときのお供缶詰として、「さんま蒲焼」と双璧をなす「さばみそ煮」まで高騰するともうお手上げだ。「水揚げの鯖が走れり鯖の上」石田勝彦。そんな風景が戻ることを祈るばかりである。