多くの人に「くろよん」の名で親しまれてきた富山県の関西電力黒部川第四発電所(黒部ダム)がきのう5日、竣工60周年を迎えた
▼人間でいえば還暦に当たるとはいえ、満期退職でも定年延長でもなく、まだまだ第一線で活躍する現役の働き手である。出力の33万5000㌔㍗は、揚水式を除く水力発電所の能力としていまだ全国4位の実力を持つ。少々ガタがきている同年配としては実にうらやましい限りである。戦後の急速な社会復興と高度経済成長が重なり、危機的な電力不足に陥っていた関西地方を救う「世紀の大工事」といわれた。富山の山奥に建設されたアーチ式一部重力式ダムは高さ186m。延べ1000万人を投入し、7年という異例の短工期で完成させた。資機材運搬の要「大町トンネル」での噴出する地下水との闘いは今も語り草である
▼大規模事業は初期投資こそ巨額だが、長く使えば使うほど「B(便益)/C(コスト)」のBの部分が大きくなっていく。くろよんもその典型だろう。こちらも還暦超えで「B/C」の改善と脱炭素社会の進展に寄与することは間違いない。既存原子力発電所が60年以上運転するのを認める「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が先週、国会で成立した
▼脱炭素社会の実現に向け、COを排出しない原発を見直すのは世界的な流れ。設備の長期利用は相対コストを下げ、電力会社の経営計画にも余裕が生じる。電気料金の安定にも効果があろう。日本のインフラは元来つくりがしっかりしている。60歳は通過点にすぎない。