スタジオジブリの映画『ハウルの動く城』(宮崎駿監督)では、魔法使いハウルと荒れ地の魔女に呪いをかけられた少女ソフィーとの恋愛模様が描かれる。見ていて胸躍る映画で大ヒットしたが、ただ華やかで楽しいばかりの作品ではなかった。悲惨な戦争が物語に重みを加えていたのである
▼魔法によって人の心を奪われ、兵器に変えられた者たちが殺し合い、街々を破壊していく。そんな世界が舞台になっていた。為政者が権勢を誇りたいがために起こした愚かな戦争。国土は荒れ、庶民は疲弊していく。戦争をやめさせようと当事国に乗り込んだハウルにやっと一方の王室付き魔法使いが言うのである。「このくだらない戦争を終わらせましょう」
▼ウクライナ南部ヘルソン州で6日発生したカホフカ水力発電所ダム決壊のニュースに触れ、その場面を思い出した。ただし現下の状況では、「このくだらないロシアの侵略を終わらせましょう」がより適切な表現だろう。流域住民の洪水被害があまりにひどい。浸水は東京23区が丸ごと飲み込まれる規模で、80を超える町や村が被災したという。どれほどの命と財産が危険にさらされたことか。日本も毎年、水害に悩まされる。人ごとと思えない人も多かろう
▼ロシアの破壊工作か事故かはまだ分かっていないものの、侵略がなければ惨事は避けられた可能性が高く、起きても救助活動が円滑に進んだはず。プーチン大統領の愚かな大国主義がまた一つ不幸を呼び込んだ。しかも最悪の形で。「侵略を終わらせよ」。そう叫ぶ国際社会の声はますます大きい。