ほんの10年前まで、オーストラリアでは中国による実質的属国化が進んでいた。現地の作家クライブ・ハミルトン氏が調査報道『目に見えぬ侵略』(飛鳥新社)で、その実態を明らかにしている
▼中国の浸透工作は政治、経済、教育、メディアとあらゆる分野に及び、科学も例外ではなかったという。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)で働く中国人研究者が、内部情報を中国に流していたのである。事件は2013年。連邦警察はスパイ容疑で中国人研究者を捕らえたものの、証拠不十分で起訴には至らなかった。氏は全ての研究成果が筒抜けになった可能性を指摘し、CSIROは「高度な産業・戦略的に価値のある研究を中国のために行っている」と嘆く
▼どこかで聞いたような話でないか。国立の研究機関「産業技術総合研究所」の中国籍の上級主任研究員が15日、警視庁公安部に逮捕された事件である。自身が研究するフッ素化合物に関する先端技術を中国企業に漏らしたとされている。報道によると容疑者の男は中国で大学教授の他、企業の役員も務めていた。中国政府とも深いつながりがあったそうだ。しかも漏えい先の企業はすぐに特許を申請し、認められていたというのだから開いた口がふさがらない
▼さらに驚くのはそんな人物を国立の機関に置いていた日本の脇の甘さである。政府は経済安全保障を重視しているが、この体たらくではその掛け声もむなしく響く。日本にも政財界はじめ各界に中国応援団が存在する。「侵略」がひっそりと進んでいるのでなければいいが。