近頃あまり聞かなくなったが、甘やかされて育った人を「温室育ち」と言ったりする。快適な環境で苦労知らずの日々。面倒な諸事雑事は周りが全て先回りして片付けてくれるため、必要な生活習慣や常識が身につかないまま大人になってしまうのである
▼それが未来にはこうなるのではと考えさせられる小説が星新一にあった。子どもの時にイヤリングをつけられ、そこから出る指示に従いながら一生を過ごすのだ。題名は「はい」。起きる時間から仕事の仕方、結婚や子どもをつくる時期、果てはいつ休むかまで指示が飛ぶ。この時代では皆、「はい」と答えて無事人生を終えるのである。悩むことも過ちを犯すこともない。指示を出すのはコンピューター。今でいうAI(人工知能)だろう
▼「進研ゼミ」で知られるベネッセコーポレーションが12日、子どもの夏休み自由研究に使える生成AIサービスを無料で始めると聞き、その話を思い出した。研究のテーマや進め方について相談に乗ってくれるという。テーマの選定に毎度苦しんだ世代としては、楽しく頭を悩ませる機会を奪うのではと心配したり、少しうらやましく思ったり。安易に使われないよう保護者の立ち会いを求めるというが、どこまで守られるのか
▼知力が鍛えられるさなかの子ども時代にどこまでAIと関わらせるべきかは、もっと議論があっていいと思うのだが、どうだろう。先の主人公は言う。「万一、この声がとぎれでもしたらと思うと、おれは恐怖を感じた」。温室育ちならぬAI育ちが将来に禍根を残すようではいけない。