台風10号、農業と観光に深刻な被害-交通網寸断も続く

2016年09月09日 19時17分

 台風10号の通過から1週間余り。被害の影響が明らかになってきた。農地被災が甚大な農業は、収穫や農産物出荷への影響が懸念され、その把握に懸命だ。観光は大口キャンセルなど深刻な影響を残すが、行楽シーズンを迎え、立て直しに全力で取り組む。十勝、釧路方面と札幌など道央圏を結ぶ主要交通は寸断が続き、道東自動車道が支えている状況。JRの復旧には時間を要し、収穫期の農産物は代替輸送の確保を急ぐ。(写真は線路が宙に浮いた状態のJR新得駅周辺)

 ■政府に支援要請

 本道は台風で農地1万2310ha、施設2514棟が被害を受けた。北海道農業協同組合中央会は8月に続き9月中に再度、政府・与党に支援要請する。農地が水に漬かり泥をかぶるなど「被害把握が難しく、交通寸断の長期化で輸送への影響も懸念される」と担当者。前回の激甚災害指定や復興予算確保に加え、作物別対応を求める方針だ。

 影響は加工側にも及ぶ。湖池屋がポテトチップス生産を委託する南富良野町の工場は浸水で稼働再開のめどが立たず、道産原料を本州工場に運び代替する準備を進めている。

 カルビーはジャガイモ収穫の遅れで新商品発売を延期。道産は「国内調達の約7割を占める」とし、原料調達への実体把握を急ぐ。

 日本甜菜製糖は清水町工場が被災。操業再開も在庫製品などで数億円規模の被害を受けた。芽室町製糖所に被害はないが原料ビートの調達や「集出荷を担う物流の状況が不安だ」と話した。

 ■車両調達厳しく

 道内はこれから農産物出荷のピークを迎えるが、交通網寸断が影を落とす。十勝地域は、台風10号被害で札幌を結ぶJR線が途絶。国道も通行止めが続く。道東道が物流を支えるが、輸送力の大きいJRの復旧には時間がかかる見込みだ。主力のジャガイモなど野菜は長期貯留が難しく、直接被害を免れた産品の円滑な荷さばきが、影響拡大を防ぐ鍵を握る。

 JR貨物は5日、トラックの代行輸送を始めたが物流関係者は「車両需要が高い時期で輸送力を賄う車両調達は厳しい」と指摘。十分な代行は難しい状況だ。

 「中旬からピークを迎える収穫、出荷に十分な輸送を確保できるかどうか」―。農産物流通を担うホクレンは、例年4割をJRで本州方面に輸送するが、鉄路に代わるトラック便の拡大を急ぐ。釧路港発のほくれん丸活用の検討も進めるという。

 道東道頼りの物流も課題だ。物流会社幹部は「道東道が天候や事故で止まると、日高などを大きく迂回する必要がありリスクは高い。燃料費、労務管理の面でも厳しい」と国道復旧を切望した。

 ■宿泊キャンセル

 道観光局によると、台風の観光施設被害は9日正午現在で90件。台風10号被害が56件で、うち十勝管内が32件、上川が10件を占めた。宿泊予約のキャンセルは127施設に上り道内観光を直撃した。

 個人やツアーのキャンセルが相次ぎ、旅行会社は影響を最小限にする対応を進めるが、周遊ルートが組めずにツアーから外れる地域も出ている。

 一部宿泊施設に浸水被害があった十勝川温泉は全施設が復旧、10日から通常営業を再開した。十勝川温泉協会の窪浩政事務局次長は「多くの観光客に来てもらうことが何よりも復興の早道」と、営業再開や交通情報を丁寧に伝え、立て直しを急ぐ。

 予約キャンセルは5000人前後に達し影響は大きいが、道東道の早期回復や無料化対応で「影響がこの水準にとどまった」と話し、一日も早い交通網復旧を期待する。

 層雲峡温泉は8月31日までのキャンセルが宿泊800人、施設利用で3200人。温泉街に被害はなく、アクセスも確保されているが、紅葉の景勝路線の通行止めも影響した。層雲峡温泉協会では「JRで訪れる外国人が増えていて特急運休が長引けば全体の客足、潜在的な客の減少につながる」とし、影響の拡大防止には交通網の早期復旧が不可欠とする。


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