真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第11回 有限会社エムズプランニング 代表取締役 シニア野菜ソムリエ/「夢カフェまーくる」主宰 吉川 雅子(きっかわ まさこ)さん

2012年12月21日 12時01分

 今秋オープンした「夢カフェまーくる」(札幌市中央区)は、飲食のみの利用はできず、農産加工品の販売や、道産食材を題材にした料理教室やワークショップの開催で人気を集めるユニークなカフェです。主宰の吉川さんは、野菜ソムリエの知識と経験を生かしたメニューの提案や商品開発、広く飲食業を対象にマーケティングを行うほか、執筆や講演活動で、「食」の未来を模索する情報発信にも尽力。夢カフェまーくるは「食育と6次産業化を振興する媒体」でありたい、と話します。

★吉川さんは、北海道の野菜ソムリエの草分けです。これまでも道産野菜料理を楽しめる「ベジカフェまーくる」(夢カフェまーくるの前身)を主宰されるなど、主に野菜を通し「食」の魅力を伝える先駆の活動で知られてきました。きっかけは。

吉川 雅子さん

☆吉川 札幌ではカリフラワーやズッキーニが高級食材売り場でしか買えなかった当時、地方の直売所では100円で販売されていて驚いたことがあるんです。私たち道民が知らない道産野菜はまだまだある、その豊かさを伝えられたらと、道産野菜をテーマに新聞の連載を始めました。でもその頃手に入る関連書籍といえば、首都圏近郊の農業事情を扱ったものばかり。インターネットの検索情報も今ほどなく、道庁の専門資料や農業新聞などを頼みの綱に、何とか道産野菜の情報を集めていたんです。

 ある時、東京で青果物について学べる講座が開催されると知り、取材の手掛かりになればと藁(わら)をもすがる思いで受講。これが機で、はしりだった野菜ソムリエの初級資格・ジュニアベジタブル&フルーツマイスターの試験に合格しました(現在は上級資格のシニア野菜ソムリエを取得)。

 連載では、野菜の栄養素や原産国、日本や北海道で育てられるようになった経緯から生産者のお気持ちまで、その背景をしっかり伝えたかったので、生産地には必ず足を運んでいました。取材先では、一株に大量の実をつけるピーマンに驚嘆したり、じゃがいも農家さんのお宅で、形や色の違う多様なじゃがいもを、揚げ物やふかしいも、いももちなど、いろいろな食べ方で楽しませていただき感激したり。実際に、見て触れて味わい知った道産野菜の魅力は想像をはるかに超えるものでした。

 この感動を少しでも多くの方に実感していただきたくなって、6年前、道産野菜料理をバイキング形式で味わえる「ベジカフェまーくる」を開店したんです。珍しい野菜や農家さんが作った加工品の販売コーナーも設け料理教室も開催。飲食店の枠を超え、消費者と、広く「食」に携わる人たちと、「食」の楽しさを共感できる場づくりに努めました。

★まーくるは、「夢カフェまーくる」と店名を変え、「食育と6次産業化の振興」の拠点として再始動しました。道の「6次産業化プランナー」にも選ばれている吉川さんの新展開に注目が集まっています。

吉川 雅子さん

☆吉川 世の中の「食」への関心が高まるにつれ、野菜主体の飲食店も増えました。そもそもまーくるは「食」の魅力を伝えるための媒体。ここ数年は、市場競争を強いられることで、意図する展開ができなくなっていくようなジレンマを感じていたんです。一度は閉店を決意しましたが、友人が、「まーくる」は「ブランド」なんだよ、と言ってくれて。ブランドは支持してくださる方々によってつくられるものです。有り難い一言が心にしみ、その信頼に応えるべく、以前にも増し、情報発信に注力する「夢カフェまーくる」として再スタートしました。

 物も情報も溢れる時代です。食べ物は身体に影響するという意識を喚起し、「食」を選ぶ眼を養うことは、大切な「食育」だと考えています。料理教室やワークショップは食材選びの予備知識を得る機会。そこでは私が取材で見聞きした「食」を取り巻く最新の情報も積極的にシェアしますし、時には国内外の食糧事情にまで話が及ぶこともあります。6次産業化を志す農家さんや自治体に、アンテナショップとして活用いただければ、加工品のテストマーケティングを行い、消費者ニーズに添う商品化に向け具体的なアドバイスもさせていただけます。1次、2次3次産業のネットワークの強化は、6次産業化のひとつの鍵。まーくるがビジネスマッチングの橋渡し役を果たせたら、うれしいです。

★まーくるで、何が生まれ育まれていくのか。今後の展開に思いを巡らせると、わくわくしてきました。

☆吉川 「夢カフェまーくる」は、やる気のある方のやりたいことをかなえる場にしたいんです。料理教室やワークショップも1日3回は開催し、多彩なイベントで、常にアクティブに機能していきます。「食」に関わるテーマであれば、例えば、読み聞かせの会でもスペースをお貸ししますよ。消費者参加型の生産地を巡るツアーの企画などで、都市と農村のつなぎ役も担いたいですね。消費者や生産者、加工者や流通に携わる人たちが、「食」の楽しみを共有し共感し、それぞれの立場で「食」のあるべき未来を気遣いながら、共に思案できたら。その先に、食育の浸透や6次産業の活性もあるのではないかと思っています。夢カフェまーくるを媒体に、そのようなきっかけとなる情報発信とコラボレーションを、どんどん実現していきたいです。

取材を終えて

大事なことを楽しく

 まーくるでは以前、多種類のじゃがいもを〝1個売り〟から販売し、好評だったそうです。人気メニューの「野菜パフェ」は、野菜をデザート用の器に盛り付け、スイーツに見立てたもの。吉川さん考案の試みやレシピには、心ときめく趣向があり、引き付けられます。情報は受け手の心が動いて初めて「伝わった」と言えるのでは、という吉川さん。大事なことを楽しく伝える吉川さんの喜びに満ちた表情に魅せられたインタビューでした。


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