ビジネス有望地帯シベリア 商機獲得へ
ゾズリャ・ユーリー氏に聞く
北海道とロシアの経済交流はこれまで、サハリンや極東地域が中心だった。多くの日本企業がさまざまな分野でビジネス参入し、成果を上げている。一方、内陸のシベリア地方への進出は極めて少なく、ビジネス面で日本の高い技術力を発揮できる新たな舞台として今後が期待される。シベリア地方の交通要衝であり、ロシア第3の都市でもあるノボシビルスク市を抱えて大きな経済発展を遂げているノボシビルスク州。シベリア地方でのビジネスチャンス獲得を目指して、FECマネージメント(本社・札幌)などが19日に主催したロシアビジネスセミナーで講師を務めた同州投資発展庁理事長のゾズリャ・ユーリー氏に、道内企業のシベリアビジネス参入の可能性を聞いた。(建設・行政部 佐々木 潤記者)
信頼性が高い 日本の品質
ゾズリャ氏は、ノボシビルスク州における日本の認知度について「日本のことは知っているが、典型的なイメージしかないと思う。例えば日本車とか世界的に有名なブランドであるソニー、ペンタックス、オリンパス、キヤノンなどのカメラ。日本の電化製品は非常に品質が良くて、壊れないというイメージが強い」と、一般市民からの信頼性が高いと語る。
ビジネス面でも、この高品質のイメージが良い影響をもたらしていると評価。「中国企業が市場進出するときは信頼性をしっかりと証明しなければならない。しかし、日本企業の場合はそのようなケースも少ないだろう」と、市場参入がスムーズに進む可能性が高いことを予測した。
日本の高い技術力に興味があると話すゾズリャ氏は、両国の技術力を合わせて共同の製品開発プロジェクトを望む。カーボンナノチューブを活用した製品開発、バイオテクノロジー技術、高技術医療などノボシビルスクにおける有望な投資分野を挙げ、互いの技術を補完し合って新製品を開発することを提言。「ロシア単独でも開発は可能だが時間を要する。両国の力を合わせて短時間で製品を作り、販売することができれば大きな利益をもたらす」と、共同開発の意義を強調した。
さらに「初期の販売市場はロシア国内だが、次の段階で全世界の市場に進出するという長期的な目標を持ちたい」と展望を示し、緊密なパートナーシップ構築を望んだ。
進出する企業に 豊富な優遇措置
ノボシビルスクにおける日本企業の進出状況については「正確なデータは示せないが、ほとんどないという認識でいいと思う。おそらく1社か2社くらいだろう」と解説。海外投資家による数々のプロジェクトが進行しているが、日本企業においても「オープンな市場なので、進出できる分野は十分にあると思う」と見解を述べた。
国外からビジネス参入する企業に対する支援プログラムも豊富にあるという。「ロシアでは最近、投資に関する新しい法律がいくつか施行された」と話し、投資金額によって税金の一部免除を受けることができたり、政府予算から補助金が出るプログラムもあることを説明。また、ノボシビルスク市内で行うプロジェクトであれば、土地借り入れで優遇措置があるほか所有物に係る税金も基本的に免除されると話す。テクノパークの入居者がイノベーション商品を開発している場合についても、同様のプログラムが適用されることを紹介した。
もう一つ有効なビジネス参入の手法として「今の時代だと日ロ合同によるベンチャー基金を創設することもいいと思う」と提案。「ベンチャー基金は共同プロジェクトや経済活動をサポートできる大きなメリットがある」と述べた。
一方で、ビジネス参入する上で注意しなければならない点もある。一つはマーケティング調査のミスで「ヨーロッパや他の国々で順調に進んでいるビジネスモデルが、ロシアではうまくいかないことがある」とし、ロシア市場の特性を考慮した調査が必要であるとした。もう一つはパートナー選びで、信頼関係を築けるパートナーを見つけることが重要であることを説いた。
安価な舗装の 技術開発必要
土木建築分野において日本企業が活躍できる可能性について聞くと、一つの事例を挙げた。それはポリマーを活用した道路舗装技術で、通常のアスファルト舗装よりも格安に施工できるような技術になることを期待している。「ロシアは巨大な国で、土木工事に充てられる予算も限られている。なるべく安価で、高品質の舗装を行える技術の開発が必要だ」と述べた。また、新たな建材開発にもポテンシャルがあると感じていること、ロシアの豊富な木材を活用した家具や住宅、エコ建築など先進的な技術や素材開発に興味を持っていると話した。
日本や北海道の企業に対するビジネスチャンスは、「大きなチャンスがあると思う。見逃さないでほしい」と強調するゾズリャ氏。ただ韓国や中国から積極的に企業が参入しているので、のんびりしていると日本企業が参入できる余地がなくなる恐れがあることを念頭に置く必要があると説明。「繰り返すが日本は他国より非常にイメージが良い、ぜひ参入を検討してほしい」とメッセージを送る。