多くの若者が身を投じた学生運動もやや下火になりかけたころの歌である。「都会では 自殺する若者が増えている 今朝来た新聞の片隅に書いていた」
▼ご存じの人も少なくないだろう。シンガーソングライター井上陽水さんの『傘がない』である。当時はといえば、変革を求めた学生運動の行き詰まりや日米安保体制強化が進む政治状況、功利主義に染まった会社社会に絶望感を抱いていた若者が多かったようだ。日本特有の窮屈な人間関係にも原因があると指摘された自殺だが、その数は現在、随分と減っている。まだ3万人以上だと思い込んでいる人もかなりいよう。実は、昨年は2万1897人。22年前の好況時の水準に戻った。不況が大きく影響していたということだろう
▼全年代で自殺は減っている。若者も例外でない。それは喜んでいいのだが、知らぬうちに昔はなかった深い闇が静かに広がってもいたようだ。インターネットを介し自殺志願者が犯罪に巻き込まれる事件が相次いでいるのである。若者9人を殺害し、部屋に隠していたとして逮捕された白石隆浩容疑者も、ツイッターで志願者を物色していた。金銭や快楽のために絶望のふちにいる人を餌食にした行為は卑劣というほかない
▼自殺を話題にするツイッターを見ると、志願者とほう助者の臆面もない書き込みに暗たんとする。減ったとはいえ若さ故の短慮から命を捨てようとする若者はこれからも後を絶たないだろう。自殺も、新たな犯罪者の出現も防ぐためには、現実社会とネット世界、両方を変えていく知恵と工夫がいる。