歌人齋藤史に一首がある。「濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けか知らぬ」。押し流されるように戦争に向かう日本のありさまを増水になぞらえた歌という
▼台風も戦争に負けぬほど人々に恐れられていたということだろう。もっともそれは現代も同じ。昨年はその事実を身近に実感させられた。8月から9月にかけ相次いで本道を襲った台風が各地でインフラを破壊し、家屋や田畑を水没させたのである。被害規模は「56水害」を超え、本格的な復旧はやっとこれから。当社は11月にこの甚大な被害をもたらした台風の災害状況を記録する『引き裂かれた大地 立ち上がる建設業者』を発刊したが、残しておきたかったのは被害の実態とともに、災害に立ち向かう建設業者らの姿だったのである
▼自然災害が発生したとき、地域建設業がどれだけ頼りになる存在か。残念なのは、一般の方々がその重要性をさほど理解しているようには見えないことだ。いなくなって初めて気付くのでは遅すぎるのだが。杞憂(きゆう)ではない。地域建設業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。最近、国土交通省も「地域建設業ワーキンググループ」を設置し、経営力強化に向けた検討に乗り出したと聞く。それだけ緊急性が高いということだろう。「地域の守り手」が消えると、国土保全に重大な危機が生じる
▼建設会社の幹部らを取材するたび驚かされるのは、彼らの持つ地域を守りたいとの強い使命感だ。泥土を除き復興の夜明けを早く迎えられるのも、そんな地域の守り手がいてこそなのである。