発達した交通と情報化により世界は狭くなったといわれる。ただ実際には人それぞれだろう。世界になど関心がない人も多い
▼『テルマエ・ロマエ』の作品で知られる漫画家のヤマザキマリさんはそれをもったいないと考えているそうだ。著書『国境のない生き方』(小学館新書)で、頭の中の地図を「町でもなく、国でもなく、自分が生きているこの地球」にまで広げられれば、ものの見え方が変わると勧めていた。ロシアが6日、北方領土の経済特区「先行発展地域」指定を決めたとの報を聞き、ヤマザキさんの言葉を思い出した。人口の0.4%しかいない極東地域の辺境に随分な力の入れようではないかと思ったのだが、どうやら筆者の頭の中の地図が狭すぎたようだ
▼ロシアは歴史上、いつも良港を開ける海を欲してきた。国土面積こそ世界一なものの、北の海は氷に閉ざされ、西の海は欧州諸国に押さえられていたためである。国際的にはいわば袋のネズミ。まあ、袋もネズミも桁違いに大きいのだが。しかも国土面積の2割に当たる欧州側地域に人口の7割が集中しているため、極東は半ば忘れられた存在だった。ところが世界が狭くなったことで東の玄関としてがぜん価値が出てきたのである
▼モスクワ―国後間7000㌔も昔なら移動を諦める距離だが空路充実の今はどうか。ちなみに東京―ハワイ間が6000㌔である。情報通信にも不利はない。もしロシアが本気で開発に乗り出せば北方領土返還は一層遠のこう。日本も頭の中の地図を見直し、早急に戦略を練り直すべきではないか。