たいていの人はあしたが来ることを疑いもせず日々暮らしているに違いない。ただこの世の現実は「一寸先は闇」である
▼タレントの阿川佐和子さんはコンサートの最中に観客が突然死したのを見た経験があるそうだ。エッセーにこう記していた。「人生というのは全く計り知れない」「本人とておそらくコンサートが終わった後、どこで夕食をとろうかとか、翌日の仕事の予定について思いを巡らせていただろう」。東京の池袋で先週、87歳の男の運転する車にはねられて亡くなった31歳の女性も、夕食の献立や子どもとのお出掛けについて思いを巡らせていたのでないか。まさか青信号の横断歩道に、時速100㌔の車が突っ込んでくるとは想像もしていなかったろう
▼この事故では自転車に同乗していた3歳になる女性の長女も犠牲になった。痛ましい、というほかない。本人の無念、そして遺族の怒りと悲しみはいかばかりか。どんな謝罪があろうと、二人の明るい「ただいま」の声は二度と聞けないのだ。おとといには神戸市JR三ノ宮駅前で、市営バスがやはり横断歩道を渡っていた人々を次々とひいた。この事故では20歳の女性と23歳の男性が死亡している。運転手の男は64歳のベテランだったという。年齢が関係しているのかどうか。どちらも原因はまだ分かっていない
▼人生はこれからという若い、幼い人たちが命を奪われる事故が相次ぐ。実にやるせない。もうすぐ大型連休である。外出の機会も増えよう。交通事故だけは絶対起こさない、遭わない―。どうか一人一人がそんな固い決意を。