昭和天皇拝謁記

2019年08月23日 09時00分

 江戸中期に清貧の暮らしを続けながら人々に学問を教えた人物に陽明学者の中根東里がいる。儒教の一派だが頭でっかちに堕することなく実践に重きを置くのが陽明学。東里はその姿勢を生涯貫き通し、高い学識があるにもかかわらず、学問で職や金品を得ようとはしなかったという

 ▼そんな東里が教えを誰にでも分かりやすく伝えるため考えた「壁書」に一句がある。「出づる月を待つべし。散る花を追ふなかれ」。これからに期待すべきで、過ぎ去ってしまったことにはとらわれるなというのである。NHKがこのところスクープとして連日放送していた昭和天皇「拝謁記」を見ていて、その一句を思い出した。NHKも過去にとらわれるあまり、いささかバランスを欠いているのでないか

 ▼「拝謁記」は初代宮内庁長官の田島道治氏が1949(昭和24)年から53年まで、在任中の昭和天皇との対話を書き残したものである。確かに興味深い記録だろう。とはいえ放送にこれほど時間を割く話題とも思えない。例えば戦略の誤りを考察したり、戦争への後悔を表明したり。また旧軍には嫌悪感を示しつつ再軍備や憲法改正には前向きの意見を述べたりしている。先の大戦を率直に語った昭和天皇の言葉は生々しい

 ▼ただ、これらは象徴天皇制の下での言葉である。学術的には意味もあろうが戦後政治とは全く関係がない。「NHKから国民を守る党」の国会進出など近頃少々分が悪いNHKだ。過去にとらわれるというより、使える手は何でも使って存在感を見せつけようという苦肉の策なのかもしれない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • オノデラ
  • web企画
  • 古垣建設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,634)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,471)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,112)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (961)
おとなの養生訓 第109回「うろ」 ホタテの〝肝臓...
2017年03月24日 (702)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。