日ロ首脳会談

2019年09月07日 09時00分

 ロマン主義詩人の代表格とされる島崎藤村の詩集『若菜集』に、「逃げ水」と題する一編があった。藤村らしい叙情あふれる作品である

 ▼冒頭の部分を引く。「ゆふぐれしづかに ゆめみんとて/よのわづらひより しばしのがる/きみよりほかには しるものなき/花かげにゆきて こひを泣きぬ」。夕暮れ時に過ぎ去った恋の思い出にふけろうと、二人しか知らない秘密の場所へ行き泣いていた、というのである。失くした恋を、追っても追ってもつかまえられない逃げ水になぞらえているのだろう。安倍首相も目の前に見えてすぐにつかめそうに思っていた水が、再び遠くに離れてしまったように感じているのでないか。北方領土問題を含む日ロ間の平和条約締結の件である

 ▼5日にウラジオストクでプーチン大統領と首脳会談を開いたものの、交渉を前に進めることはほとんどできなかったようだ。2016年の日本、17年のAPECでの首脳会談あたりまでは事態が大きく進展しそうに思えていたのだが。今は首相がプーチン氏に、一方的にラブコールを送っているように見える。早期返還を願う日本にとってはやきもきさせられる話でないか。今回、両首脳が合意したのは「未来志向」で交渉を続けることだけだったそうだ

 ▼プーチン氏は最近の変動著しい大国間のパワーバランスを眺めて、もう少し日本に「未来」という逃げ水を見せておこうと判断したのかもしれない。ロシアは昔からしたたかな国である。日本も陰で「泣きぬ」では話にならない。ロシアに本物の水を出させる方策を練らねば。


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