現代の神話

2021年08月12日 09時00分

 今は神話が生活に根付いている時代ではない。しかし全く必要がなくなったのかといえばそんなことはない。神話学者ジョーゼフ・キャンベルはそう考えていた

 ▼かつて人々が神話に求めていたのは、つかみどころのない「生きる意味」などではなく「いま生きているという経験」だったそうだ。「苦しみ、戦い、生きていく」苦難の物語をわがこととして内面化することで、生きる喜びを感じていたというのである。昔は神話を実際の体験と変わらない現実として受け止めていたらしい。限りある命しか持たない人間が生を意義あるものにするための手段だったのだろう。『神話の力』(早川書房)に教えられた。東京オリンピックを連日観戦して思ったのだが、現代人にとってはこの大会が神話の一つになっているのでないか

 ▼終わって4日たったというのに今も胸の内の熱はさめない。苦しみ、戦い、挑戦していく選手たちの苦難と冒険の物語。見ているといつの間にか自分がその物語の中に入り込んでいた。コロナ禍による行動制限で生きる喜びを感じる機会が減ったことも影響していよう。多くの人が力強く美しい物語を必要としていた。強大な相手との戦い、若者の躍進、英雄の挫折、宿命の対決、王者の風格―。五輪で見たものはまさに神話のモチーフそのもの

 ▼日本のメダル獲得数は金27、銀14、銅17の合計58で歴代最多。世界3位の成績だった。もちろんうれしい結果である。ただメダルに関係なく全ての選手に物語があった。「いま生きているという経験」をくれた現代の神話に感謝したい。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 古垣建設
  • 川崎建設
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,623)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,452)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,103)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (966)
おとなの養生訓 第109回「うろ」 ホタテの〝肝臓...
2017年03月24日 (713)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。