新型コロナの脅威が高まりつつあった昨年4月のことである。当時厚生労働省クラスター対策班を務めていた西浦博京大教授(感染症疫学)が死亡者は41万人を超えるとの試算を明らかにし、物議を醸すという出来事があった
▼まだウイルスの正体もよく分かっていなかったころだ。41万人という衝撃的な数字が一人歩きし、メディアもその点ばかりをこぞって取り上げたため、脅しが過ぎると批判を受けたのである。もちろん西浦教授は最初から、〝人と人との接触を減らすなどの対策を全く取らない場合〟と条件を明示していた。発生から2年経ち、答え合わせができた今は誰もがそうならなかった事実を知っている。個人はもとより行政、国がしっかり対策を取った結果に違いない
▼内閣府が21日公表した、日本海溝・千島海溝沿いで巨大地震と津波が発生したときの新たな被害想定も性格は先の試算と同じだろう。北海道で13万7000人、全国で19万9000人もの人が死亡するとの予測が示されている。真冬に適切な備えが全くないまま地震の直撃を受けると、最悪こうなると予測はつく。ただ、いたずらに怖がる必要はあるまい。東日本大震災という未曾有の災害を経て、われわれは多くの学びを得ている
▼危険な地域のかさ上げや移転、防潮堤の整備、避難タワーの設置、快適な避難所の用意、一人一人の心構え―。問題は東日本では事後に回ったこれらの対策を、事前に取らねばならないことだ。最悪の試算は最善の結果を招くためにある。この想定でコロナ同様、死者を最少化できるといい。