東日本大震災が引き金になった東京電力福島第1原子力発電所事故の後、怪しい言説を流す識者が数多く現れた
▼著名な大学教授が〈あと3年で日本に住めなくなる〉と言ったかと思えば、あるジャーナリストは〈東京が壊滅する〉と大騒ぎし、有名な雑誌は〈20年後のニッポン がん 奇形 奇病 知能低下〉と不穏な特集を組んだ。ただの勘違いではなかろう。科学的事実を無視した悪質デマと断ぜざるを得ない。一般に識者と呼ばれる人々がいかに適当なことを言っているか、驚くばかりである。ノーベル賞を受賞した認知心理学者のダニエル・カーネマン氏も著書『ノイズ』(早川書房)で専門家を「自信過剰な連中」と呼び、他の心理学者のこんな言葉を紹介していた。「平均的な専門家の予測的中率は、ダーツ投げをするチンパンジーとだいたい同じ」
▼そんな間違いをおかすのは、多くの専門家が自らの経歴にあぐらをかき、ろくに調べもせずに直感や思いつきでものを言う傾向があるからだという。原子放射線の影響に関する国連科学委員会が19日来日し、きのうまで東京や福島で「福島第1原発事故の放射線による健康被害は現在、将来共にない」との研究結果を解説していた。ただ、伝えた報道機関は数えるほど
▼多くの報道機関が事故後、健康被害は後を絶たず、福島産食品も危険という間違った情報を競うように発信してきた。なのに福島は安全との情報にはだんまりである。ろくに調べもせず、感覚で報道してきたことが知られると困るのだろう。チンパンジーが人間になる日は遠い。