世間から貧乏長屋と笑われることに腹を立てた大家が、評判を覆してやろうと花見を開く。落語の「長屋の花見」である。酒やさかなをたっぷり用意し、怪しむ住人を引き連れ上野に繰り出す
▼ところが灘の生一本と銘打たれた樽の中身は番茶を水でかさ増ししたもの。卵焼きはたくわん、かまぼこも大根の漬物といった具合。大家が言うのである。「こんなものでも賑やかにやってりゃ、はたからは豪勢に見える」。姑息(こそく)な手だが、うっかりすると周りも信じてしまうに違いない。現代も似たような例があるようだ。政治や社会の問題について一斉に投稿するいわゆる「ツイッターデモ」である。全投稿の半数が1割のアカウントによって水増しされたものだったという
▼読売新聞が昨年目立った10件のデモを分析し、先週発表した。どうやら何回も繰り返し投稿するアカウントがあるらしい。一人で複数のアカウントを開設し、それぞれから発信を重ねるケースもあるのだとか。ご苦労なことである。例えば一番注目された安倍晋三元首相の国葬反対デモでは、101回以上投稿したアカウントが28%もあった。意外にも最少が1回で7%。最多が11―100回で44%だった。中には4200回以上投稿したアカウントもあったそうだ。数を増やせば世論が盛り上がって見えるというわけ。暇なのか熱心なのか
▼国葬反対の投稿は64万件に上ったものの、実際は番茶の水割りくらい中身が薄かった。デモの大家が誰かは知らないが、長屋の花見と同じで世間はごまかせない。お後がよろしいようで。