才能があっても大成するとは限らない。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』(文春文庫)に、幼なじみで尊王攘夷(じょうい)の志を同じくする武市半平太を、坂本竜馬がそう評する場面があった。事実、武市は志半ばで謀反人として切腹させられる
▼竜馬は武市を大いに認めていた。謀略のうまさは大久保利通と肩を並べ、人物の格調の高さは西郷隆盛に匹敵。人を感化する力は長州の吉田松陰に似ているというのである。ではそうした一流の人物たちとどこが違っていたのか。竜馬はこう考える。「仕事をあせるがままに、人殺しになったことだ。天誅、天誅というのは聞こえはよいが、暗い。暗ければ民はついて来ぬ」。政治の世界も似たところがあるようだ
▼第20回統一地方選の前半戦が9日、終わった。ふたを開ければ野党第1党の立憲民主党は今回も強い印象を残せなかった。立民は存在感を示そうと焦るあまり、殊更に日本社会のあら探しをしたり、閣僚や官僚を怒鳴りつけたり。そんな国会議員が目立つ。きつく当たるのは世直しのためだというと聞こえはいいが、竜馬の言を借りれば「暗い」。それが党のイメージを低下させ、地方選にも影響したのだろう。道府県議選で立民は185議席にとどまり、改選前の議席を下回った。野党第1党にふさわしい数ではあるまい
▼全国で唯一、与野党全面対決となった本道知事選も現職の鈴木直道氏が立民推薦の候補を大差で破り当選している。有権者も今の社会に問題が多いのは重々承知。とはいえ才があっても文句ばかり多い人にはついて行きたくない。