蘭越の蒸気噴出

2023年07月11日 09時00分

 物理学者の中谷宇吉郎といえば北大で世界初の人工雪製作に成功した人物だが、資源やエネルギーの問題にも造詣が深かった。山に積もる大量の雪を、お札が積んであるようなもので日本の一番の財産だと言った話は有名である。もちろん水力発電を念頭に置いてのことだった

 ▼地熱利用にも関心を持っていたという。日本には数多くの温泉があるとし、「石炭に換算して、一千億円分の熱量」だと随筆に記していた。雪国の温泉へ行って湯に浸り、真っ白な山を眺めてみると、将来の日本に熱エネルギーの心配はいらないことがよく分かるそうだ。1952年の随筆だから、時代を先取りしていたというべきかもしれない

 ▼雪山を望める温泉なら本道にもたくさんある。ニセコ地域もその一つ。蒸気が激しく噴出する事案の起きた蘭越町湯里の現場が、まさにその地熱資源調査の掘削地点だった。ニセコをよく訪れる人にはおなじみの、〈蘭越町交流促進センター 雪秩父〉大湯沼から北東300mの場所である。発生から10日あまりたつものの、抜本的な事態収拾のめどは立っていないのが現状のようだ。出たのが蒸気だけならよかったが、周辺の水からは飲料水基準をはるかに上回るヒ素が検出されているのだとか

 ▼これまでに4人が体調不良を起こし、付近の農業にも影響が出ている。道も7日、事業主体の会社に行政指導をしたそうだ。地熱開発は適地選定が全て。ニセコ地域が潜在力を秘めているなら頓挫させるのは惜しい。中谷博士が描いた風景に近付けるためにも、一日も早く問題を解決したい。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 川崎建設
  • 古垣建設
  • 日本仮設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,695)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,487)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,163)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (1,030)
おとなの養生訓 第109回「うろ」 ホタテの〝肝臓...
2017年03月24日 (737)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。