経済活性化に前向きな声 周辺自治体連携組織で情報収集へ
ラピダス(本社・東京)による千歳市内での次世代半導体工場新築を巡り、隣接する東胆振管内では期待と不安が錯綜(さくそう)している。人流の形成や経済活性化につながるとの前向きな声が聞こえる一方、経験のない事業内容・規模なだけに戸惑いもうかがえる。苫小牧、厚真、安平、むかわ、白老各市町が参画する周辺自治体連携組織(25日発足予定)で情報収集を図るなど、地道な取り組みが求められる。(苫小牧支社・草野健太郎記者)
ラピダスの進出計画を受け、東胆振では早くも「周辺に人流が生まれる」「経済の活性化につながるのでは」といった期待が湧く。苫小牧商工会議所商工振興部の中村航地域振興課長は「千歳に通勤できる距離感が強み。すでに工事関係者用住宅の建設計画もあり、ポジティブな印象」と話す。
同じく千歳市に近い厚真町の宮坂尚市朗町長は、ラピダス進出を好機と捉え、宅地造成に取り組む考えを示す。新工場従業員らの住宅需要を想定し、上厚真地区の敷地5haにゼロカーボンビレッジを80―100区画整備する方針。「2011年に分譲開始したフォーラムビレッジと合わせ、計150区画ほど提供したい」と意気込む。
1市4町は、連携してラピダス効果を探る。苫小牧市港湾・企業振興課の力山義雄課長は「1自治体だけでどうにかできる話ではない。一枚岩となって検討する姿勢が重要だ」と話す。
一方、最大の不安材料は次世代半導体についての情報不足で、具体的な経済効果がイメージしづらい点だ。連携組織への参画で情報共有の機会が増えることは確実視されるが、理解を深めるためには一定の時間を要する。
貴重な建設技能者が新工場建設に流れる可能性も懸念の一つ。最大6000人の作業員が動員される見込みで、公共工事の入札の不調不落にもつながりかねない。東胆振のある行政関係者は「今は発注者も受注者も人が足りない。工事は計画的に進めているが、技術者がいなければ対応を考える必要がある」と漏らす。
管外では、すでに十勝管内で「引き抜き」の動きが出ているもようで、地元経済界は危機感を抱いている。地方から札幌圏の工事に職人が引き抜かれるケースは以前からあるが、ラピダス進出が東胆振に影響を与える可能性は高い。
人だけでなく建機が十分に確保できるか不安視する声もある。北海産業の伊藤光雄社長は「ボールパークなどの大型事業が落ち着き、待機する建機は一定数ある。ただ、ラピダス関連の工事が本格化すれば、どうなるかは不透明だ」と見通す。
経済界は負の影響を受けないよう検討を進めている。苫小牧商工会議所の中村地域振興課長は「次世代半導体について知らない人が多い。自治体とも情報共有を進め、市内が活性化する取り組みを考えたい」とする。
国策とも呼ばれるラピダスの次世代半導体工場。事業規模や経済波及効果は未知数だが、今は理想と現実を見極め、地域に求められる役割を精査する段階だ。