▼京都を舞台にした奇想天外な小説を数多く書いている森見登美彦の作品には「詭弁論部」なる学生サークルがよく出てくる。「魂の半分が屁理屈でできている阿呆たちの牙城」(『四畳半王国見聞録』新潮社)であるらしい。例えばこんな具合だ。ある部員が自身の間違いを認めず言い張る。「部員は常に真実を語る。でも正真正銘の真実というやつは、世間一般の常識とは逆さまになっちゃうものなのだ」
▼実際にこんな人たちがいたら相当に厄介だろうと思うが、やはり事実は小説より奇なり。どうやら実在したようだ。舛添要一東京都知事のことである。6日に記者会見を開き、政治資金私的流用疑惑についての、いわゆる「第三者」調査の結果を公表した。ざっくり言えば要点は二つ。その一、不適切な使途はあるが違法性は全くない。その二、反省はしているが知事を辞めるつもりはない。沈痛な面持ちの下から、赤い舌がぺろりと出たような気がしたのは勘違いだったのかどうか。
▼多くの人が疑念を抱いたのは、政治資金規正法上違法かどうかもさることながら、知事としての資質と人間性に対してだろう。むしろこんな人が首都の知事かと頭を抱える人を増やしたのでないか。伊藤左千夫の『独語録』にこんな言葉があった。「世の中に何が卑しいといって、人の為め人の為めといいつつ、自分の欲を掻く位卑しい事はあるまい」。知事は会見で「都民のため」を繰り返したが、「自分のため」をこれだけ見せつけられた後では詭弁(きべん)にしか聞こえない。