▼イソップ物語には「ウサギとカメ」や「北風と太陽」などいろいろな話がある。誰もが記憶の引き出しに幾つか話をしまっていよう。その中に「カエルと井戸」はあるだろうか。こんな話である。一緒に暮らす2匹のカエルがいた。暑い夏に沼地が乾いたため新天地を求めて旅に出たそうだ。探し歩いているうち1匹のカエルが深い井戸を見つけた。「冷たくて気持ちよさそう。飛び込んでここに住もうか」
▼もう1匹のカエルは少し賢かったらしい。その問い掛けにこう答えたのである。「そんなに慌てるな。もしこの井戸があの沼地のように乾いてしまったらどうやって出るんだ」。行動を起こす前にもう一度熟考すべきことを教えるが、英国は今回、この賢いカエルより1匹目のカエルの考え方を選んだようだ。欧州連合(EU)離脱か残留かをめぐって国を2分する戦いを繰り広げた国民投票は、僅差だが離脱派の勝利で終わった。大方の予想を覆す結果に、驚いた人も多かったろう。
▼きのうはポンド売りのあおりを受けて円高が進み、日経平均株価も一時下げ幅が1300円を超えた。ただ最も衝撃を受けているのは当のEUだろう。こうなると先の伊勢志摩サミットで安倍首相が世界経済の現状について語った「リーマンショック前に似ている」の言葉が、何やら予言めいて思い出される。それにしてもこれほど英国内で移民制限と雇用難、反EUの声が強くなっていたとは。英国は重大な岐路に立った。さて飛び込んだ井戸は快適か、それとも乾いた不毛の地か。