雪山に登ろうとするとき、まず覚悟せねばならないのがラッセルである。雪をこいで登山ルートを確保することだが、平地と違ってこれがなかなかつらい
▼筆者も若いころ、腰の高さ以上のラッセルで息絶え絶えになった経験が何度もある。山行では大体パーティーを組んでいたから交代しながら登れたものの、単独行ならどれだけしんどかったことか。先頭を歩き、道なきところに道を付ける苦労は並大抵ではない。そんなことを考えたのも、夕張市が22日の市議会で新たな財政再生計画案を公表したとの報に触れたからである。市はこの10年、難題がたっぷり積もった厳寒の雪山で、たった一人のラッセルを続けてきたようなものだ
▼体力を限界まで削り、歯を食いしばって前に歩を進めてきた。やっと展望が開ける場所にたどり着いたということだろう。児童館や図書室を備えた複合施設の建設、認定こども園の整備、市立診療所の移転改築―。新たな計画には未来を担う子どもたちのためのメニューが並ぶ。鈴木直道市長は、ことしを「10年間止まっていた『地域再生』という時計の針を動かし、リスタートさせる年」と位置付けているという。幸い国は支援を約束し、ふるさと納税も好調だ。それもこれもまだ誰も登ったことのない山を行く挑戦者を応援したいがため
▼主要産業の衰退、財政破綻、高齢化。多くの問題にいち早く取り組んできた夕張市は、今や先駆者であり同じ問題を抱えた多くの自治体のお手本である。この困難なラッセルの先にある頂上からの眺めは、きっと見事だろう。