昆虫といえば身近な生き物の一つだが、小さな体に似合わず驚異的な能力を持つものも少なくない。例えば生殖行動の場面
▼雌が雄を引き寄せるのに化学物質フェロモンを放出することはよく知られているが、カイコガ科の一種は空気中にあるわずか1分子のフェロモンを感知できるらしい。「大海の一滴」を的確に感じ取る雄の執念や恐るべしといったところである。『昆虫はすごい』(光文社新書)に教えられた。ところで人間も負けてはいない。国立がん研究センターなどが参画する研究開発プロジェクトが、1滴の血液で13種類のがんを発見できる新しい手法を開発し、来月から臨床研究に乗り出すそうだ。がん細胞が血液中に分泌する「マイクロRNA」を調べることでがんの種類まで特定できるのだとか
▼しかも正確度はいずれも95%を超えるそう。このマイクロRNA、直径2(10億分の2)mのDNAよりはるかに小さいというから、血液1滴といっても大海の中から検出するようなものである。画期的なのは、腫瘍マーカーが一定程度進行したがんでないと測定できないのに対し、この検査方法だとごく早くに多くの種類のがんを一遍に見つけられること。胃、肺、乳、大腸、食道と比較的日本人に多いがんが対象なのもうれしい
▼早期発見なら完治も珍しくなくなっているのが今の医療である。診断装置やデータベースができ、検査体制も整えばあとは病院で気軽に血液を採取してもらうだけ。検診率も大幅に上がるに違いない。フェロモンではないが大いに興味を引かれる話である。