江戸時代の絵師歌川広重が江戸から京都までの宿場風景をいきいきと描いた浮世絵に「東海道五拾三次」がある。永谷園のお茶漬けに付録として入っているカードの絵を思い出す人も多いだろう
▼このうち44番目の「四日市」は、三重川のほとりの一本道を草木が大きく揺れるほどの強風が吹き荒れている場面。その中を歩く一人の旅人はかっぱを必死に押さえ、もう一人は飛ばされた編み笠を慌てて追いかけている。風景に動きを持たせることで、本来は目に見えないはずの風を見えるようにした広重の技だろう。この名浮世絵師の表現する風情とは趣を異にするが、今回の強い台風15号でも見えないはずの風が見えるようになった出来事が多々あった
▼君津市で東京電力の送電用鉄塔2基が倒壊したのをはじめ、市原市ではゴルフ練習場のネットと支柱が倒れ住宅複数を直撃、羽田空港の駐車場では改修中の工事用足場が崩れた。不幸なことに強風にあおられて転倒し、頭を打って亡くなった女性もいたという。千葉県は特に被害が大きかったらしい。最も驚いたのはやはり市原市の山倉ダムで発生した水上メガソーラー火災である。映像で見るとかなりめくれ上がったり折り重なったりしていた
▼投資回収率の高さから急増したメガソーラーだが安全性や環境面で配慮不足の施設もあり、地震や豪雨のたびに事故が伝えられる。自然に優しい開発がなされているかいま一度点検が必要だろう。ともあれメガソーラーを含め構造物は、広重が風の絵に使えないくらいしっかりと安定していてほしいものである。