名優ヒュー・ジャックマンが主人公ジャン・バルジャンを演じた2012年のミュージカル映画『レ・ミゼラブル』で、最も印象に残ったのは「民衆の歌」の場面だった
▼王族のパレードが進んでいるさなか、革命を目指す学生の一人がそれを歌い出す。「列に入れよ われらの味方に 砦の向うに世界がある 戦え それが自由への道」(岩谷時子訳詞)。歌う人は次第に増えてゆき、ついには市民の大合唱になる。一人では何も変えられない小さな声も、たくさん集まれば体制をも揺るがす大きな力になるということだろう。この歌は香港の民主化運動でも当初から参加者の支えになっていたそうだ。とすると今回の香港の大勝利も驚くには当たらないのかもしれない
▼24日投開票の香港区議会選挙で民主派が全議席の8割を超える380議席以上を獲得した。しかも投票率は71%。改選前に7割あった親中派の議席は2割を下回った。議会を押さえ共産党支配を強めようとした中国にとってはかなりの痛手だ。香港といえばこのところデモ隊と警察当局の衝突が激しさを増し、民主派の若者が死亡する事態にまで発展している。日常生活や経済への影響も大きく、デモ隊に反発する市民も少なくないと伝えられていた。それなのにこの大差である
▼自由と民主主義を守りたい香港市民一人一人の歌が、共感の輪を広げながら大合唱となっていったに違いない。それほどまでに人々の中国不信は強かったのだ。中国はこの結果を謙虚に受け止めた方がいい。無視すると合唱の声は世界規模でさらに大きくなる。