感染対策のため移転拡張の動きも
札幌のオフィス事情を巡り、多様な動きが始まった。都心部ではコワーキングスペースが増えるほか、密を避けるため広いオフィスに移転する動きが出ている。オフィス空室率が上昇傾向にある中、2021―23年で大型ビル6棟の竣工が控える。新型コロナウイルス下でのテレワーク普及をはじめ、オフィスの在り方が変わりつつある。
コロナ禍の収束が見えない中、テレワーク推進により事務所を解約・縮小する企業がある一方、感染対策としてフロアを拡張する企業もある。
ソフトウエア開発のミックウェア(本社・神戸)は昨年10月、道内進出に伴って新設したオフィスを2年足らずで移転した。増員に伴う手狭感とコロナ対応が理由だ。板井和行主事は「開発者のためにも1人当たりの作業スペースを広く取った」と説明する。
中央区北3条西1丁目の札幌ブリックキューブに構えた新オフィスは、従来の2倍に当たる400m²で、エントランスの間仕切りにガラスを使うなど開放感が印象的。約25人いる開発者のデスクには飛まつ感染対策としてローパーティションを置く。板井主事は「密にならず作業に集中しやすい」と移転効果を口にする。
オフィス仲介業者などによると、コロナ禍を理由とする移転・拡張の動きは首都圏と違って札幌ではまだ鈍く、ミックウェアの取り組みは珍しいケース。しかし、テレワークの高まりでIT企業の業績が好調なだけに、事業拡大に合わせたオフィス需要を感じさせる。
■新規ビル大量供給で市況に変化も
札幌のオフィス市況は、コロナ禍の影響を受け始めてから空室率が上昇する動きとなった。オフィス仲介の三鬼商事によると、札幌都心部の空室率はコロナ感染拡大前は1%台まで下がっていたが、現在は2%後半で推移する。同じくオフィス仲介の三幸エステートの調査でも2%台から3%台まで上がった。
札幌市内の供給は今後も続く。21年は京阪電鉄不動産が北区で新築したオフィスビル2棟が竣工するほか、特定目的会社が22年の完成に向けて富樫ビル跡地に仮称・南2西2PJを建設中。23年はオフィス床を持つ北8西1地区の再開発ビル、北海道放送(HBC)社屋跡地再開発ビルなど3棟の供給を予定する。このため、既存ビルからのテナント移転や企業誘致が活発になることが見込まれる。
■コワーキングスペース増加、運営に課題
オフィス供給に先立つ形で目立つのが、テレワーク需要に応えるコワーキングスペースの増加だ。20年はサツドラホールディングスや北海道新聞社の本社ビルなどでオープン。esエンターテイメント(本社・札幌市中央区)は自社の飲食店を月額会員が自由に使うコミュニティースペースとして提供し、話題を呼んだ。
21年に入ってからもジェイアール東日本企画(本社・東京)が、中央区北5条西5丁目にあるJR55SAPPOROビルでコワーキングスペースを開設したほか、WOOC(同)も9月に札幌駅北口エリアでオープン予定だ。
利用者はフリーランスやスタートアップ企業などが多くを占め、会社員のテレワーク利用はまだ少ない。運営面では、利用者の母集団が首都圏などに比べて小さいほか、単価を上げにくいといった課題が見えてきた。
ある経営者は「札幌ではビジネスとして成立しにくい」と指摘。定着にはまだ時間がかかるとみる。
働く上での感染対策は、オフィスを広くするか、テレワークを導入するかという2つに大別される。大量供給に伴うテナント確保競争も予想される中、アフターコロナを見据え、札幌に拠点を置く企業は今後どのような選択をするのか。不動産関係者の関心が高まっている。
(北海道建設新聞2021年8月17日付10面より)