日本の家族や文化にも造詣が深いフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏が、近著『老人支配国家 日本の危機』(文春新書)でコロナ禍の日本についてこんな見方をしていた
▼「『高齢者』の『健康』を守るために、『若者』と『現役世代』の『生活』に犠牲を強いた」。高齢者が無理に下の世代を従わせているとの主張ではない。超高齢社会のため、構造的に「老人支配」の度合いが強いというのである。その上でこう指摘する。社会を存続させるのに、「『高齢者の死亡率』よりも重要なのは『出生率』であることを忘れてはいけません」。目先の死亡ばかりにとらわれ、問題の本質を見失っているのではと日本の将来を心配していた
▼どうやらトッド氏の取り越し苦労ではなかったようだ。先週、気になるデータが出てきた。仲田泰祐東大准教授と千葉安佐子東京財団博士研究員が、コロナ禍の影響で2020年と21年の2年間におよそ11・1万件の婚姻が失われたとする推計を公表したのである。コロナ禍の前から日本の婚姻数は減少傾向にあったものの、その予測ラインをさらに下回る落ち込みぶりだったという。減少要因としては経済的な不安の増加と出会いの減少が大きいそうだ
▼この事実が一層深刻なのは出生数も同時に下がるからである。政府方面からはようやく出口戦略の話が聞こえはじめたが、あまりに遅い。政府の新型コロナ対策分科会に医療関係者だけでなく各分野の識者も集めたのは、こんな事態を未然に防ぐためだったはずである。識者も高齢の人ばかりなのだろうか。