サラリーマンを続けながら歌手としても活動していた木山裕策さんの歌に『home』(多胡邦夫作詞作曲)がある。同じ思いに胸を打たれた人も多いのでないか
▼歌詞にこんな一節があった。「君がくれた溢れるほどの幸せと真っ直ぐな愛を 与えられてるこの時間の中でどれだけ返せるだろう 帰ろうか もう帰ろうよ茜色に染まる道を 手をつないで帰ろうか 世界に一つだけ my sweet home」。幼いわが子と手をつないで公園を歩いているとき、自分の手を握る子どもの手にぎゅっと力が入ったとき感じた思いを歌っている。無条件に寄せられる信頼、無私の愛、父親としての責任。単純な言葉では表現できないそういった感情だろう
▼人生は長いというが、子どもと一緒にいられる時間は案外短い。仕事にかまけていたり、ぼんやりしたりしていると、家族との時間はいつの間にか残り少なくなっている。縁あって一つ屋根の下で暮らしているのだ。せっかくの機会を無駄にはしたくない。ところがウクライナでは今、そんな世界に一つだけの家庭の幸せを無残に打ち砕く事態が進んでいる。ロシアの侵略に立ち向かうため、兵士だけでなく一般の男たちも戦場に立っているのだ。〝戦場〟というが、そこはきのうまで家族が平和に生活していた土地のことである
▼妻子を国外や安全な所に避難させ、男たちは銃を手にして故郷防衛の最前線に踏みとどまっている。プーチン大統領が残忍な侵略命令を発してから1週間が過ぎた。父親が子どもの手を再び握れる日は一体いつになるのか。