米マイクロソフト社を設立したビル・ゲイツ氏は慈善家としても名高い。中でも力を入れているのが気候変動である。そんな氏が最近の著書『地球の未来のために僕が決断したこと』(早川書房)で興味深い指摘をしていた
▼「東京がすべての電気を風力でまかなうようになった」らどうなるかというのである。普段は問題ない。しかし台風が来て、風車を止めねばならなくなった。3日間は蓄えた電気でしのがねば。さて、そのときバッテリーは幾つ必要だろう。答えは1400万個以上だそうだ。これは「世界で10年間に製造される蓄電容量よりも多い」らしい。ちなみに購入価格は51兆円ほど。つまり現実的とはいえないということである
▼東京都が一般住宅に太陽光発電設備の設置を義務付ける条例を施行する方針という。太陽光と風力は違うものの、台風や梅雨などで雨が続けば発電量が急減する性質は変わらない。しかも蓄電のためのバッテリーは技術、価格どちらの面からも普及はまだ先の話になる。そもそも住宅用太陽光は1軒ごとに日当たりや電気の使い方、売電目標など細かく検討してから設置を決めるもの。一定の効果が出る断熱性や気密性と異なり、各戸で結果の差が大きい
▼義務付けは施主でなく事業者に対してというが、最後に責任を引き受けるのは施主である。脱炭素の流れとはいえ、常時の安心は望めず、各戸に不公平が生じる施策は拙速の感が否めない。小池知事流のパフォーマンス。もしその派手なエネルギーを電気に変換できれば東京を賄ってお釣りがくるかもしれない。