離れた土地に生活の拠点を移して数十年の月日が流れていても、故郷を思うとふと切ない気持ちになるという人は多いのでないか。吉幾三さんも自身が作詞作曲した『故郷(ふるさと)』でそんな心境を歌にしていた
▼こんな一節が耳に残る。「昔なら広すぎて 遊んだ道も 昔なら高すぎて 登った丘も 忘れてた道がある いろんな道が 出会う人声かける これがふるさとさ」。しみじみと、うなずいてしまう。帰ろうと思えば帰れる故郷でもそんな気持ちになるのである。自由に立ち入ることのできない場所ならなおさらだろう。しかもこれからは懐かしの土地に近づくことさえできなくなるかもしれない
▼ロシアの最高検察庁が21日、北方領土の元島民などで結成する「千島歯舞諸島居住者連盟」を、「好ましからざる団体」に指定したのである。ロシア領土の一部を奪うのが目的だとして、ロシア国内での活動や情報発信、資金の移動を禁止。連盟関係者は今後、ロシアへの入国が事実上、難しくなる。ウクライナ侵略を非難し、西側のロシア包囲網に加わる日本への意趣返しというわけだ。無理やりでも一度手に入れたら自分の物。取り戻しに来る者は敵として攻撃する。プーチン大統領はそんなヒグマのような本性を隠さなくなった
▼連盟がこれまで取り組んできたのは元島民の墓参や自由訪問、現島民との交流といった事業で、目的は北方領土の平和的復帰に向けた機運の醸成。ロシアに脅威を与えるものではない。元島民は故郷につながる希望の糸を断ち切られた気分でいよう。暴挙である。