規則正しい生活を心掛け、服装は地味で少し堅苦しく見えるくらいがちょうどいい。言葉遣いはあくまで丁寧に。振る舞いにも真面目さが求められる。つまり、他人から見ると品行方正な人物というわけ
▼これは何かといえば、SFショートショートの名手星新一が想定する「盗賊会社」の社員の資質である。迷惑な態度をとったり、派手な姿で出歩いたりなどはもってのほか。警察に目を付けられてはいけないのだ。社員が次の計画に宝石商の襲撃や高級車の強奪を提案すると、それでは成功しても大騒ぎになり活動に支障をきたすと社長は言う。そしてこう諭すのである。「少量ずつでも数をこなし、安全第一とするのが、わが社の方針だ」。どうやら現実はそれほど穏やかではない
▼東京・銀座の高級腕時計店で8日、衆人環視のもと堂々と強盗が行われた。事件は午後6時過ぎというからまだ外は明るく、路面店だから人通りも多い。安全第一どころか、どうぞ見てくれといわんばかりの大胆な犯行である。実行犯4人は程なく警察に逮捕されたが、奪われた1億円相当の腕時計100点のうち見つかったのは70点ほど。どうやら残りを手にして逃走中の黒幕がいるらしい。実行犯はいずれも10代。闇バイトで集められた可能性もあると聞く
▼こちらの「盗賊会社」の社長は自分が労せず利を得るためなら、社員など平気で切り捨てる方針なのだろう。最初から実行犯たちを目立たせ、皆が捕物で大騒ぎしている間に逃げる算段だったのかもしれない。自分だけは目を付けられぬようひっそり街に紛れて。