統計のうそや誤りを分かりやすく伝える例えの一つに「テキサスの狙撃兵の誤謬」がある
▼狙撃兵が納屋のドアに向かってマシンガンを乱射し、弾痕が集中している部分に後から的を描けば、神業のごとき腕を持つ銃の名手に見えるというもの。その演出を統計に置き換えるとどうなるか。出てきた数字に本来の意味とは別の、まことしやかな物語を後付けすれば、情報を受け取る人々の印象を簡単に操作できるわけ。『ニュースの数字をどう読むか―統計にだまされないための22章』(ちくま新書)で以前仕入れた豆知識である。この時期恒例のいわゆる「国の借金」のニュースを見てそれを思い出した。過去最大を更新との話題に多くのメディアが飛びつき、報道しているが、相も変わらず間違った情報を流している
▼財務省がおととい明らかにしたのは、2022年度3月末現在の「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」。それによると合計は1270兆4990億円に上ったという。そこまではいい。ところが、メディアはさらに合計を日本の総人口で割り、国民一人当たりの借金が1000万円を超えると喧伝した。これはおかしい。国債に限れば9割以上、合計でも9割弱を国内で保有している。国民一人当たりというなら、資産だって同じくらいあるのだ
▼もとよりそれはただの数字遊び。一人当たりを出す意味は本来どこにもない。メディアは公正に見える数字を使って借金物語を後付けし、危機感を演出できれば目を引くニュースにできるとの狙いなのだろう。正しい的はそこではない。