宇宙のブラックホールを撮影できる科学を持つ今でも、深海となると人間が直接見たのは全体の5%に満たないそうだ。潜水調査船「しんかい6500」で何度も深海に達した藤岡換太郎静岡大学防災センター客員教授が、『見えない絶景 深海底巨大地形』(講談社)にそう記していた
▼「宇宙のスケールから見ればゼロにも等しいのですが、水によって光を遮られた深海は、ある意味では宇宙よりも遠いのです」。地球から3億km以上離れた小惑星にいる「はやぶさ2」とは通信できるのに、たかだか数千mの深海には電波が届かない。宇宙よりも遠いというのもうなずける。捜索が難航するのも当たり前である
▼大西洋で沈没した豪華客船タイタニック号を見るため、3800mの深海に向かった観光潜水艇タイタンが18日、消息を絶った。米国やカナダの沿岸警備隊が24時間体制で捜索を続けているが、行方はようとして知れない。気になる音は探知しているものの、潜水艇かどうかは分からないそうだ。乗り組んでいるのは操縦士1人を含む5人。安否が気遣われる。潜水艇はバラストの重さで沈み、それを捨てて浮上する単純な仕組み。行方不明となるとトラブルが発生したのは間違いない
▼藤岡教授によると、調査船は投光器のついた前方しか見えないため、他の部分が海底の物体に当たって故障する危険が常にあるのだとか。今回はそもそも強度が不足していたとの報道もある。いずれにせよ本体が無事でも酸素は4日分という。今朝までに本欄の心配が無用のものになっているといいのだが。