北海道の「ラピダス」(東京)と熊本県の「TSMC」(台湾)。半導体製造大手の相次ぐ日本での大工場建設は、激しさを増す世界的な半導体競争の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めている。それだけに政府のてこ入れも例になく強い
▼今はあらゆる電子機器に内蔵され、今後はAI(人工知能)の発展を左右する半導体だが、元をただせば軍事と共に成長してきた技術であることはよく知られた事実だろう。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の精度を上げるため、高性能で小さく軽い半導体がどうしても必要だったのである。核爆弾の搭載が前提だから、動作の安定性も絶対の条件だった。半導体に限らず軍事から民生に転用された科学技術は多い
▼それを考えると、このかたくなな態度には少々疑問を感じざるをえない。会員の選考などで政府ともめている日本学術会議がいまだに、「軍事目的のための科学研究を行わない」旨の声明を後生大事に抱え込んでいるのである。内閣府の特別機関なのだが。戦後間もなくだった設立時の、侵略戦争に協力する研究はしないとの理念はよく分かる。ただ、今は日本も世界も昔と同じではない。侵略と防衛を一緒にし、軍事要素があれば研究も禁止では、科学の芽を摘むことになろう
▼防衛省は28日、防衛力強化に資する技術をまとめた「防衛技術指針2023」を公表した。人と機械の融合や高出力エネルギー、メタバースなど先端技術が多数盛り込まれている。半導体同様、将来の生活を豊かにする技術もあろう。学術会議はこれも否定するのだろうか。