天下無双の剣豪宮本武蔵の技が生まれ持っての才だけでなく、稽古に次ぐ稽古で磨かれたことはよく知られている。厳しい修行の末、ついに到達したのが「空(くう)」の境地だったという
▼「朝々時々におこたらず、心意二つの心をみがき、観見二つの眼をとぎ、少しもくもりなく、まよひの雲の晴れたる所こそ、実の空としるべき也」(『五輪書』)。兵法に加え広く武芸も修めよと説いた上で、そう続けていた。「空」がいかなるものか凡人には計り知れないが、はるかな高みにあることだけは確かなようだ。二刀を自在に操る二天一流を完成させた武蔵だからこその悟りだろう。最近の活躍ぶりを見ると、彼もいよいよその奥義を会得したのではないかと感心させられる
▼投打二刀流を実践する米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手の話である。きのうのダイヤモンドバックス戦で、31号となる特大のホームランを放ち、観衆を驚かせた。アメリカン・リーグで2位に7本の差を付け、トップを独走する。6月27日のホワイトソックス戦では投手として出ながらホームランも2本打ち、チームを勝利に導いた。漫画でもこんな夢物語のようなドラマは描けまい
▼3年連続して投打二刀流でのオールスター戦出場が決まったのもうなずける。11日には、またファンをあっと言わせる活躍をしてくれるのでないか。ただ、大谷選手も才だけでここまできたわけではない。「朝々時々におこたらず、心意二つの心をみがき、観見二つの眼をとぎ」到達した高みだ。しかもなお鍛錬を欠かさない。真の侍である。