物理学者の中谷宇吉郎といえば北大で世界初の人工雪製作に成功した人物だが、資源やエネルギーの問題にも造詣が深かった。山に積もる大量の雪を、お札が積んであるようなもので日本の一番の財産だと言った話は有名である。もちろん水力発電を念頭に置いてのことだった
▼地熱利用にも関心を持っていたという。日本には数多くの温泉があるとし、「石炭に換算して、一千億円分の熱量」だと随筆に記していた。雪国の温泉へ行って湯に浸り、真っ白な山を眺めてみると、将来の日本に熱エネルギーの心配はいらないことがよく分かるそうだ。1952年の随筆だから、時代を先取りしていたというべきかもしれない
▼雪山を望める温泉なら本道にもたくさんある。ニセコ地域もその一つ。蒸気が激しく噴出する事案の起きた蘭越町湯里の現場が、まさにその地熱資源調査の掘削地点だった。ニセコをよく訪れる人にはおなじみの、〈蘭越町交流促進センター 雪秩父〉大湯沼から北東300mの場所である。発生から10日あまりたつものの、抜本的な事態収拾のめどは立っていないのが現状のようだ。出たのが蒸気だけならよかったが、周辺の水からは飲料水基準をはるかに上回るヒ素が検出されているのだとか
▼これまでに4人が体調不良を起こし、付近の農業にも影響が出ている。道も7日、事業主体の会社に行政指導をしたそうだ。地熱開発は適地選定が全て。ニセコ地域が潜在力を秘めているなら頓挫させるのは惜しい。中谷博士が描いた風景に近付けるためにも、一日も早く問題を解決したい。