公共交通機関を最もよく利用する20代の半ばごろまで国鉄があったため、度々起こるストライキには慣れたものだった。今の若い人には信じられない話だろうが、鉄道もバスも完全に運行が止まるのである
▼移動の手段を持たない人や私鉄の少ない地方にこれはつらい。とはいえ事実上の恒例行事のため、受け止めとしてはいわば自然災害。不便で迷惑と思いながらも通り過ぎていくのを待つだけといった感があった。働く人が一枚岩になって賃金や待遇の改善を実現させる運動だから批判もしずらい。国鉄に限らず多くの業種で大規模なストが行われていた時代である。人ごとではなかった。ただ、それも度が過ぎ、社会機能が頻繁にまひするようになると人々の心も離れていく。日本で今、ストは数えるほどしかない
▼米ハリウッドの俳優ら約16万人で結成する全米映画俳優組合がストに入ったとの報を聞き、かつての日本を懐かしくもうんざりと思い出した次第。米映画界だけに、世界を巻き込む闘いになる。組合側は動画配信に対応した報酬制度の見直しや、人工知能(AI)を悪用した人的能力搾取の防止を訴えているという。うなずける話だ。優れた俳優が育たねば面白い映画も見られなくなる
▼日本の芸能界でもジャニーズ事務所創業者をはじめとする性加害や暴力事案、一方的な条件押しつけが相次ぐ。一枚岩になれる仕組みがないゆえに、演者側は弱い立場のままだ。ストを歓迎はしないが、やむをえない場合もあろう。ハリウッドでも最後の頼りは一人のヒーローでなく働く人の団結である。